エトナ山の白ブドウ「カッリカンテ」

ヨーロッパ最大の活火山「エトナ山」

ヨーロッパ最大の活火山である、エトナ山。イタリアの最南端、シチリア州東部にあります。

たびたび続く噴火活動により標高は今も変化し続けており、2021年8月現在3,357mになるといいます。ちなみに日本の富士山は3,776m、それには及ばないにしてもエトナ山はとても高い山であることが分かります。

富士山と同じように裾野が大きく広がった円錐型をしており、シチリアはとても暑いところですが、エトナ山では冬になると毎年雪が積もります。

噴火を続けるエトナ山

エトナ山のブドウ畑

実はこのエトナ山の斜面にもブドウ畑があります。2000年以降、エトナのワインはイタリアで最も注目されるワイン産地の一つへと大躍進しましたが、決して新しいワイン産地ではなく、地元の農家さんにより昔からブドウ栽培が行われてきた土地です。

白ブドウ品種の代表はCarricanteカッリカンテ、黒ブドウ品種の代表はNerello Mascaleseネレッロ・マスカレーゼです。

私が初めて訪れたイタリアのワイン産地がシチリアのエトナでした。プラネタ社のアテンドで9月中旬の夕暮れ時、標高850mのエトナ山の北斜面・シャラヌォーヴァで、小雨が降り、かなり肌寒かったのを覚えています。

シャラヌォーヴァから車で7~8分ほど下ると、プラネタ社のフェウド・ディ・メッツォというワイナリーに到着しました。

フェウド・ディ・メッツォ・ワイナリー

火山の噴火により冷え固まった溶岩がゴロゴロしている小道を入っていくと、突如として現れたのは神秘的な古い畑。

フェウド・ディ・メッツォの古い畑

この畑を見たときはとても驚きました。

今まで見たブドウ畑は、広い面積に垣根仕立てや棚仕立てできれいに整えられたブドウ畑が多かったのですが、ここではアルベレッロという低木の株仕立てで栽培されており、見るからに樹齢が高くクネクネしていて、まるでこの地に何百年も前からいる仙人に会ったような不思議な感覚でした。

とても静かでヒンヤリしていて、神秘的な空気で満ちていました。

土は黒くてふかふかで、やや小石が目立ちます。ほとんどが黒ブドウでしたが、果皮の色は淡いものも濃いものも混ざっており、数本ですが白ブドウなのか、果皮が色づいていないブドウもありました。

一本一本支柱に支えられているものの、非常に力強く自立しているようにも見え、私の中ではすっかり「仙人のブドウ畑」と記憶に焼き付けられました。

今回は、このエトナ山の白ブドウ「カッリカンテ」をご紹介したいと思います。

エトナ山の白ブドウ「カッリカンテ」

カッリカンテ

カッリカンテはイタリア語の「caricare 積む」に由来していると言われ、ブドウが大量に実をつけ、ロバや荷車に積んで運ぶ必要があることからそのように名付けられたようです。

栽培面積は1900年代初頭には4,000ヘクタール以上の畑があったそうですが、2009年には146ヘクタールにまで減ってしまい、そのほとんどがエトナ山の斜面で栽培されています。

カッリカンテの特徴

このブドウの最大の特徴は、酸が非常に強いこと。

そのため、生産者たちはマロラクティック発酵(リンゴ酸を乳酸に変える発酵でワインの酸味を和らげる)を選択することもしばしばです。シュール・リー(発酵後一定期間、澱とともに熟成させ、酵母由来の旨味をワインに移す)で、ワインの味わいに厚みや複雑さを持たせるケースも多いです。

そんなカッリカンテですが、偉大なワインは主にエトナの東斜面で生まれます。カッリカンテの歴史的な産地で古木も多いエリアです。

実は東斜面は、エトナの中で最も寒く最も雨が多いエリア、年間降水量は約2,000ミリにもなるところ。北斜面の降水量は約800ミリ程度ということなので、かなり多雨なのが分かります。このような過酷な環境下でもカッリカンテはゆっくりと確実に成熟していきます。

カッリカンテの土壌

ところでこの真っ黒な火山性土壌、この土地でのブドウの成熟には欠かせないものなのです。というのも、黒い土壌は日中の陽射しにより熱を蓄えることができます。山の斜面の土地は夜になると気温がぐっと下がり寒くなります。そうすると土壌が蓄えた熱が放出され、周辺の微気候はやや暖かいものとなるのです。

また、低く仕立てられたアルベレッロ(株仕立て)は大変理にかなったものです。なぜなら360度どの方向からも太陽の光を浴びることができるから。そして地面に近い低い位置にあることで、輻射熱の恩恵を受けることもできます。

カッリカンテの白ワイン

カッリカンテの白ワインは、レモンやライム、青りんご、オレンジの花、カモミール、アニスが複雑に絡み合い、洗練されたミネラルのアロマ、鮮烈なレモンのフレーバーがあります。強い酸味と塩味を感じる味わい、ギュッと引き締まった印象で、長い余韻を楽しめます。

また、5年くらい熟成させると複雑さを増し、はっきりとした火打ち石やペトロールのような香りが出てきて、まるで辛口のリースリングのようです。そして、素晴らしいカッリカンテのワインは、悠に10年を超える熟成も可能です

カッリカンテは酸が強いため、最初はとっつきにくいと思われるかもしれません。ただ、その複雑さ、奥深さに触れたら、皆さんにとって決して忘れられないブドウ品種となるでしょう。

いずれにしてもイタリアの白ブドウ品種の中で、最も注目すべき偉大な品種のひとつであることには違いありません。

カッリカンテを使ったワインはこちら

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