夏に飲みたいワイン「ヴェルディッキオ」

夏になると飲みたいワイン、みなさんにもありますか?

私にとって夏に飲みたいワインはヴェルディッキオ種で造られた辛口の白ワイン、初夏の夕暮れどき、海風を感じながら魚介料理と楽しめたら最高です。

柑橘や洋ナシ、白い花、そしてフレッシュハーブの香りを持ち、生き生きとした酸味とミネラル感に溢れ、余韻には生アーモンドのトーンがある、マルケ州の白ワインです。

イタリア中部アドリア海に面するマルケ州の「ヴェルディッキオ」

海沿いにはどこまでも続くビーチ、海水浴を楽しむ人たちで賑わいます。レストランのメニューには、新鮮な魚介類を使ったシーフード料理がズラッと並びます。


写真)マルケ州の風景

海から少し内陸に入ると美しい丘陵地帯。ブドウ、小麦、ヒマワリなどの畑がまるでパッチワークのように広がり、山岳地帯へと繋がります。海と山、両方の恩恵を受け、地元の食材を使った郷土料理はバラエティー豊かで飽きることがありません。

「ヴェルディッキオ」はここ、マルケ州に深く結びついた土着品種で、16世紀の書類に既にその呼び名を確認することができ、19世紀末にはブドウ品種学者により「マルケ州の最も重要な白ブドウ品種」と名言されています。

ヴェルディッキオを使ったイタリアワインはこちら

ヴェルディッキオの歴史

そんなヴェルディッキオですが、20世紀後半に不運の波に呑まれそうになりました。

1950年代にデザインされたアンフォラ型のボトルに詰められたヴェルディッキオが世界的に大人気となり、そのスタイルを多くの生産者が真似て量産するようになったのです。
結果、ワインの質の低下を招き、ヴェルディッキオのイメージが大きく下落することとなります。

ところが1980年代、量より質へ、意欲的な生産者により収量を制限した高品質なヴェルディッキオが瓶詰めされるようになりました。

その努力が徐々に消費者に認められ、安ワインのイメージを塗り替えることに成功し、今再び「マルケの最も重要な白ブドウ品種」として復活したのです。

現在、ヴェルディッキオから造られるワインはさまざまなタイプがあり、

  • スパークリングワイン
  • スティルワインは辛口から甘口まで
  • 気軽に楽しめる>デイリーワイン
  • 時間をかけて向き合いたい長期熟成タイプ

と幅広く、バラエティに富んでいます。

ヴェルディッキオの重要産地

ヴェルディッキオの重要産地は2つあります。

ヴェルディッキオ・デイ・カステッリ・ディ・イエージ

ひとつは、「ヴェルディッキオ・デイ・カステッリ・ディ・イエージ」というワインが造られる、エジノ川両岸に広がる標高約200mから500mの丘陵地帯。

海の影響を受け、ヴェルディッキオの特徴である酸とミネラルを保ちながらも、ふくよかな果実味がある親しみやすい味わいのヴェルディッキオを生むエリアです。

マテリカ

もうひとつは海の影響の少ない内陸の「マテリカ」、昼夜の温度差が大きく、厳格な酸とミネラルを持った熟成能力の高いワインを生みます。


写真)収穫されたばかりのヴェルディッキオ

マテリカはイエージに比べ、エリアも小さく生産量も少ないので、みなさんが小売店やネットショップでヴェルディッキオのワインを見かけるとすれば、イエージのワインがほとんどかもしれませんね。

ヴェルディッキオの生産者「ヴィッラ・ブッチ」を訪ねて

さて以前、私の脳裏にヴェルディッキオを鮮明に印象づけたものがありました。

それは、収穫したばかりのヴェルディッキオが除梗・破砕され、ジュースになるときの爽やかなハーブのような香り。成熟したブドウ、そしてワインも緑(=ヴェルデ)がかっていることから、ヴェルディッキオと名付けられたのではないかという説の裏付けを体感したような気がしました。

ヴェルディッキオ・デイ・カステッリ・ディ・イエージの造り手「ヴィッラ・ブッチ」を訪ねた9月中旬、ちょうど収穫の真っ最中でした。

ブッチ家はこのエリアに350haもの土地を持つ名家で、ブドウ畑は30haほど。収穫していたのはモンテカロットにあるヴィッラ周辺の畑でした。こちらの畑の標高は約350mで東向きの斜面にあります。

有機農法を実践し、地面には草がふかふかに生え、昆虫たちにも嬉しい環境です。ブドウは丁寧に手摘みされていきます。

緑のカーペットに生えた緑の葉を持つ樹から緑のブドウが収穫される様子は、色彩的にも非常に綺麗で印象に残る光景でした。


写真)収穫風景

ここ、モンテカロットはアドリア海から30kmほど内陸にあります。当時、イエージのヴェルディッキオというと単純に海に近いというイメージを持っていた私にとっては、海を隔てる山こそないものの、そこから海を望み感じることはできず、意外と離れているんだなという感想を持ったのですが・・・、これは後にマテリカを訪れ、その地形を目の当たりにしたときに一気に腑に落ちることとなりました。

さて、マテリカのお話。

マテリカはアドリア海から60kmほど内陸に入った土地ですが、最大の特徴は四方八方を山に囲まれていること。


写真)山々に囲まれたマテリカ

つまり、アペニン山脈に属するシビッリーニ山地から連なる山々にマテリカの西側(アペニン山脈側)だけでなく、東側(アドリア海側)も囲まれた谷間の土地であることです。

要するに、アドリア海側を、海に対して平行に走る山脈が隔てていますので、海の影響を受けにくい内陸性の乾燥した気候となります。

標高は約400~500m、カステッリ・ディ・イエージのエリアと比較し、季節による気温差が大きく、また昼夜の気温差も大きいため、ブドウはフレッシュなアロマと高い酸味を保ちながら、ゆっくりと成熟していくのです。

このような地形がもたらす気候の影響で、カステッリ・ディ・イエージのヴェルディッキオとマテリカのヴェルディッキオは大きく表情が異なるのです。


写真)海沿いのレストラン

カステッリ・ディ・イエージのヴェルディッキオには魚介料理が似合います。古代ギリシャ人の港として栄えたアンコーナは、今でも港湾都市として重要な拠点となっている港町です。

アンコーナの名物料理「アンコーナ風魚介のスープ(ブロデット)」は13種類もの魚介類をトマトで煮込んだ濃厚な味わいで、そのお供にヴェルディッキオ・ディ・カステッリ・ディ・イエージは欠かせません。


写真)ブロデットをソースにしたパスタ

またマテリカの、酸味とミネラル感が強い引き締まった味わいには、表情を和らげるための瓶熟成が必要ですが、鶏やウサギなどの白身肉料理やハム、チーズがとても良く合います。


写真)ウサギのポルケッタ~詰め物をしたウサギのオーブン焼き

ですが…マテリカのワインも魚介料理にいけますし、カステッリ・ディ・イエージのワインも幅広い料理に合わせられます。
食事とともに歩んできたイタリアワインらしい、懐の深さを感じますね。

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