リボッラ・ジャッラ

グラヴネルのリボッラ2009

「リボッラ・ジャッラ」というブドウ品種をご存知でしょうか?

イタリア北東部にあるフリウリ-ヴェネツィア・ジューリア州のゴリツィア近郊の丘陵地帯で栽培される非常に古い白ブドウ品種で、隣国スロヴェニアのブルダでも多く栽培されています。

ボッラ・ジャッラ
リボッラ・ジャッラ

いわゆる「リボッラ」と呼ばれるワインは、13世紀からヴェネツィア貴族の食卓にいつも用意されていたと言われています。しかしながら、これは今でいう、リボッラ・ジャッラという品種から造られたワインとは違い、その土地で様々な品種がミックスされ造られたワインのことをそのように呼んでいたとか。
ちなみに同地方に「リボッラ・ネーラ」と呼ばれる黒ブドウ「スキオッペッティーノ」がありますが、リボッラ・ジャッラとは全く無関係だそうです。

リボッラ・ジャッラはさまざまなワインに醸造されています。香り高いスパークリングワインから、ステンレスタンクで醸造されたフレッシュなライトボディの辛口、樽熟成の辛口、酸化熟成の進んだフルボディのオレンジワイン、ごく一部ですが部分的に貴腐菌の影響を受けたワインなどもあります。どのタイプも非常に興味深いワインとなりますが、特にフレッシュなスパークリングワインや、ライトボディの辛口白ワインは、リボッラ・ジャッラの持ち味である白い花のトーン、レモンのようなみずみずしい柑橘の風味、はつらつとした高い酸味を持ち、爽やかでデリケートな個性が魅力的なワインとなり、とても飲み心地が良いものです。


ところで、大変優れたリボッラ・ジャッラが生まれるエリアがあります。それは、ゴリツィアという街からSP17という道路を車で15分~20分ほど北上したところにある、DOCコッリオに含まれる「オスラヴィア」。ダリオ・プリンチッチ、ラ・カステッラーダ、プリモシッチ、フィエグル、グラヴネル、ラディコン、イル・カルピノと、1kmも離れていない距離に、名だたるワイナリーが並びます。標高150~180m程度、スロヴェニアやアドリア海からの風が常に通り、ブドウ畑は南から南西向きの斜面に位置しており、日当たりがとても良く、昼と夜の温度差も大きい丘陵地です。このエリアの生産者たちは、ステンレスタンクでの低温発酵や、バリック(小樽)熟成によるワインなど、時代に合わせたワイン造りもしてきましたが、グラヴネルやラディコンを筆頭に1990年代半ばくらいから、リボッラ・ジャッラの果皮や種子も一緒に漬け込みながら好気的に発酵させ、酸化熟成の進んだ「オレンジワイン」の生産に注力するようになりました。外観はオレンジ色から琥珀色で、赤ワインのようにブドウの風味とタンニンがしっかり抽出されたまろやかで深みのある複雑な味わいのワインです。オレンジワインの醸造は、実は何世紀も前からの伝統的な醸造方法であり、ワイン発祥の地と言われるコーカサス地方のジョージアでは約8000年も前から続けられている、ワインの起源ともいわれる手法なのです。

こちらは「GRAVNER グラヴネル」のリボッラ2009年。撮影は2021年6月です。

グラヴネルのリボッラ2009
グラヴネルのリボッラ2009

とってもきれいな琥珀色、見事に酸化熟成が進んだ色合いです。カラメルやナッツ、ドライアプリコット、オレンジピール、ドライフラワー、ホワイトペッパーの香り、凝縮したブドウの旨味と後半にかけて勢いを増すしなやかな酸、緻密なタンニンがあり、堅固なストラクチャーが全体をバランス良くまとめあげます。グラヴネルは醸造にアンフォラ(素焼きの壺)を使います。アンフォラはもともと、古代ギリシャやローマなどでワインの運搬などに利用されていた容器のこと、コーカサス地方のジョージアでは「クヴェヴリ」と呼ばれ、何千年も前から現在に至るまでワイン醸造に使われてきました。実際グラヴネルはジョージアのワイン造りに影響を受け、アンフォラを導入したそうです。収穫から市場に出るまで7~8年かかるワインです。

2018年9月上旬、ちょうどオスラヴィアではピノ・グリージョを収穫したばかりの頃、「RADIKON ラディコン」と「IL CARPINO イル・カルピノ」を訪問しました。どちらのワイナリーも、収穫で大忙し。ピノ・グリージョの発酵がまさに行われていました。開放型発酵槽にピノ・グリージョが果皮・種ともに漬け込まれ、さわさわと音を立てています。

ラディコン、ピノ・グリージョ発酵の様子
ラディコン、ピノ・グリージョ発酵の様子
イル・カルピノ、ピノ・グリージョのピジャージュ(櫂入れ)を行う
イル・カルピノ、ピノ・グリージョのピジャージュ(櫂入れ)を行う

ところで、このエリアに特徴的な土壌があります。それは「ポンカ」、いわゆるフリッシュ土壌の一種です。泥灰土の層と圧縮された砂(砂岩)の層が交互に積み重なってできたもので、非常に脆く手でも砕くことができるほど。この土壌がブドウ栽培にとって重要なのは、砂岩の層は水はけがよく、泥灰土の層がスポンジのように水を保持してくれるので、雨が少ないときにも、ブドウにとって極端な水不足を防ぐことができるためです。

ポンカは脆く壊れやすい
ポンカは脆く壊れやすい
ポンカ
ポンカ

リボッラ・ジャッラは、一般的なワイン用ブドウに比べて果房は小さく、重さにしてわずか80グラムほど。果粒はやや大きく、果皮は厚めで若干タンニンがあるブドウです。このブドウは痩せた丘陵地で栽培することが必須です。平地のブドウ畑や保水性のある粘土質の土壌で栽培するとたくさんの実をつけ、味わいもフラットなものになってしまいます。ポンカのような痩せた土壌で、厳格な収量制限をし、樹齢の高いブドウから限られた数の果実を得ることによって、興味深いワインを造ることができるのです。収穫は9月下旬と、白ブドウの中では晩熟。9月上旬のこのとき、リボッラ・ジャッラは見事に実っていましたが、ブドウを食べてみると種がまだ緑色で十分に熟しきっていないのが分かります。収穫にはまだ早く、さらに3週間ほど待たなければなりません。

イル・カルピノ、リボッラ・ジャッラの畑
イル・カルピノ、リボッラ・ジャッラの畑

ラディコンでは、「RADIKON’S BLUE」「S RANGE」「THE SELECTIONS」と3シリーズのワインが造られていますが、すべて果皮などとともに発酵させたマセラシオンスタイルです。マセラシオン期間は2週間程度(S RANGE)のものから、4ヶ月に及ぶ長い漬け込みをするものまでさまざまです。長い漬け込みをするということは、長い熟成をさせなければならず、リリースまで7年近くかかるということです。赤ワインに関しては10年以上経ってからリリースされます。強いこだわりを感じますね。

ラディコンのさまざまなワイン
ラディコンのさまざまなワイン

一方、イル・カルピノは、オレンジワイン「IL CARPINO」シリーズだけでなく、マセラシオンをしていないフレッシュな白ワイン「VIGNA RUNC」シリーズも造っています。オレンジワインに関しては漬け込み期間はブドウ品種によって異なり、10~15日程度のものが主流となりますが、リボッラ・ジャッラに関しては約50日と長めです。オレンジワインと言っても、飲みやすく、エレガントなスタイルを目指しており、さまざまな食事と楽しむことができます。

イル・カルピノにてテイスティング
イル・カルピノにてテイスティング
リボッラ・ジャッラの種を練り込んだタリアテッレ
リボッラ・ジャッラの種を練り込んだタリアテッレ

イル・カルピノでは、お庭でランチを御馳走になりました。このパスタ料理、トマトソースのタリアテッレにはリボッラ・ジャッラの種が練り込んであります。噛みしめると、カリッとした食感があり、とっても楽しい。この土地の太陽と風を感じながら、この土地が育んだ食材をシンプルに調理したお料理とワインをいただくと、とてもテンションが上がります。メインディッシュは鶏のロースト、これはオレンジワインとの相性がバッチリでした。

もうひとつ、いわゆるリボッラ・ジャッラのグラン・クリュ的なエリアがあります。それは、DOC フリウリ・コッリ・オリエンターリのエリア内にある「ロサッツォ」。11世紀に建てられた「ロサッツォ修道院」と歴史的に結びついたエリアです。ロサッツォに関しては、またの機会にご紹介させていただければと思います。

リボッラ・ジャッラは軽く爽やかなスパークリングワイン・白ワインから、複雑でまろやかなオレンジワインまで、まさに千変万化。知れば知るほど興味深く、地元の生産者たちが大切にしているのも理解できます。ぐんぐん暑くなるこれからの季節、まずはキリッと冷やした白ワインやスパークリングワインからトライしてみてはいかがでしょうか?近い将来、リボッラ・ジャッラがみなさんのお気に入りの品種のひとつになっているかもしれませんね。

リボッラ・ジャッラを使ったワインはこちら

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