ソムリエの
お話し
SOMMELIER


31 寒い冬にじっくりと味わいたいアマローネ

「アマローネ」を飲んだことはありますか?

明るく艷やかなガーネットの色調を持ち、シロップ漬けのチェリーやドライフルーツ、甘いスパイスやチョコレートなどの香り、ジューシーな果実味と丸みのあるタンニンを持つ、複雑で余韻の長いイタリアの辛口赤ワインです。長期熟成も可能ですが、若いうちに飲んでもとっても魅力的。その官能的で包み込むような味わいは世界のワイン愛好家たちに支持され、現在では年間1,500万本も生産されています。

「アマローネ」というのはイタリア語の「アマーロ(苦い)」の強調形。
なぜ苦いのかというと、まずは偶然生まれたアマローネ誕生のお話から。

アマローネが造られるヴァルポリチェッラ地方は、もともとは「レチョート」という甘口ワインの産地でした。レチョートとは、収穫後のブドウを陰干しした後アルコール発酵を進めますが、途中で発酵を止めて甘口に仕上げたワインのこと。20世紀の初め頃、いつも通りレチョートを造っているときに、アルコール発酵を止めるのを忘れてしまったことがあったとか。そこで生まれたのがアマローネでした。飲んでみると甘くなくて辛口だった。甘口とあえて区別するために「アマーロ(苦い)」と表現したそうです。


アマローネとはどんなワインなのでしょうか。それではこれから深遠なアマローネの世界を覗いてみましょう。

アマローネの伝統的な産地は北イタリアのヴェネト州、世界遺産であり「ロミオとジュリエット」の舞台ともなった「ヴェローナ」という街の北側(ヴァルポリチェッラ地方)に広がります。

(右)世界遺産の街・ヴェローナ


(左)ヴェローナにあるジュリエットの家

Valpolicellaはラテン語の「Vallis-polis-cellae」に由来し、「多くのセラー(ワイナリー)がある谷」という意味、古代ローマ時代からワイン造りが行われ銘醸地として知られてきた丘陵地です。ここの地形は独特で、ヴェローナを起点として南北にいくつもの谷が走っています。西にはイタリア最大のガルダ湖を擁し、北にはレッシーニ山塊を抱え、この山塊がアルプスの冷たい北風から守ってくれるので、比較的温暖な気候に恵まれブドウは完全に成熟します。なおかつ昼夜の寒暖差もあるのでブドウのアロマと酸がきれいに保たれるのです。

伝統的なヴァルポリチェッラの産地「ネグラール」

アマローネはヴァルポリチェッラで成熟したいくつかの土着品種をブレンドして造られます。主体となるのはコルヴィーナ・ヴェロネーゼ。果皮が薄く、ワインにするとレッドチェリーやブラックベリー、スミレの香りがあり、高い酸味と柔らかなタンニンを持つ黒ブドウです。他にはコルヴィノーネ、ロンディネッラ、モリナーラなど。伝統的な「ペルゴラ・ヴェロネーゼ」という棚仕立てで栽培されています。

MASI社マッツァーノ(単一畑)の伝統的な棚仕立て「ペルゴラ・ヴェロネーゼ」

そして特徴的なのがその醸造方法。古くはこの地方で4世紀頃から行われてきた伝統的な製法です。ブドウは9月の下旬から10月の初旬に収穫されます。収穫したブドウのうち、健全なブドウのみが竹製のラックに広げられ、「アパッシメント」と呼ばれる陰干しの工程に入ります。最近では管理のしやすさからプラスチック製の容器を使用する生産者が増えているようですが、伝統的な竹製ラックは通気性に優れているため、健全で自然な陰干しを進めていくために役立ちます。陰干しは「フルッタイオ」と呼ばれる、自然の風が通り抜ける建物内で行われ、ブドウは腐敗やカビを防ぐため定期的に丁寧に回されます。また、この自然条件を人工的に再現した空調システムを使用してブドウを乾燥させることも認められています。乾燥させること3~4ヶ月、ブドウは徐々に水分が抜け、糖度や風味が凝縮していきます。甘さを増し、酸味は低下し、ポリフェノール濃度が高まり、グリセリンが増加します。また「レスベラトロール」という物質も発達します。レスベラトロールは強い抗酸化作用がある成分で、動脈硬化や心臓発作のリスクを減し、抗がん作用もあると言われる注目の健康成分です。

MASI社のマッツァーノのフルッタイオにある陰干し専用ラック

水分の蒸発によりブドウの重量が30~40%減少した1月~2月頃、ようやく発酵過程に入ります。伝統的には温度コントロールしいないで(冬の低温下で)ゆっくりと行います。なかなか発酵が進まず、通常でも1ヶ月半、長くて2~3ヶ月に及ぶこともあります。このように醸造されたワインは長い熟成期間が必要です。アマローネの生産規定ではトータルで2年間熟成させれば出荷できることになっていますが、スラヴォニアンオークの大樽で6年以上寝かせ、出荷までに8年くらいの時間を要するアマローネもあります。20~30年の熟成にも十分に耐えうる長命なワインとなり、テロワールを明確に反映します。

ところでアマローネには「ふたつの収穫」があると言われています。
ひとつは、通常のブドウの収穫時。
もうひとつは秋から冬にかけて陰干ししたブドウを集めるとき。どちらの時期も天候に恵まれないと良いヴィンテージにはならないのです。

このような伝統的な製法で造られたアマローネを「古典的」と呼ぶならば、反対に「近代的」なアマローネもあります。発酵はコンピューターで制御された温度コントロール可能なステンレスタンクでスピーディーに行い、フランス産の小樽で熟成させた、クリーンでジューシーな果実味主体のアマローネです。近代的アマローネの洗練されたスタイリッシュな味わいは国際市場で人気となり、現在のアマローネの地位を築き上げました。


さて、アマローネはどのようなお料理と相性が良いのでしょうか?

一般的には肉料理、なかでも風味の強いジビエとの組み合わせが推奨されています。
でもなかなかジビエをいただく機会なんてないですよね。
心配ご無用、アマローネといえば「ワインバー・ワイン」の代表格、凝った料理がなくても十分に楽しめるワインなのです。
特に近代的アマローネは必ずしも食事が必要ではありません。ワインだけで飲んで美味しいですし、チーズやナッツ、ビターチョコレートなどがあればそれで十分です。
和食だったら醤油の甘辛い味付けの料理がいいですね。すき焼きとかうなぎの蒲焼とか。豚の角煮や黒酢の酢豚などの中華料理ともおすすめです。
そもそもアマローネには突出した酸やタンニンはなく、親しみやすさが持ち味なので、あまり深く考えずいろいろな料理と気軽にトライしてください。
最初は冷やしておいて、大きめのグラスでゆっくりと温度を上げながら飲んでいくとアマローネのいろいろな表情がみえてきて楽しいですよ。