ランブルスコ

イタリアには、赤の微発泡または発泡ワインがいくつかあります。

その中で最もポピュラーで親しみやすいのが、イタリア北部エミリア-ロマーニャ州のエミリア地方で生産される「ランブルスコ」ではないでしょうか?今回はランブルスコについて少し掘り下げてみたいと思います。
みなさんは「ランブルスコ」についてどのようなイメージをお持ちですか?

1970~80年代頃、アメリカでランブルスコが爆発的人気となり大量生産された時代がありました。
残念ながら「ファンタグレープ with アルコール」という言葉が似合う、甘くシンプルなランブルスコです。
ワイン愛好家たちはこのようなランブルスコを軽視し、ランブルスコ=安ワインというレッテルが貼られるようになりました。

ですが、これはもう過去の話。

近年では意欲的な生産者が辛口で高品質なランブルスコを造るようになり、フードフレンドリーなワインとして再び注目を集めています。
実はランブルスコというのはワインの名前でもありますが、品種の名前でもあります。
一口にランブルスコといっても、実は17品種も存在するようです。ランブルスコは野生品種から生まれたもので、おなじみのシャルドネやカベルネ・ソーヴィニョンなどに代表されるヨーロッパ種のワイン用ブドウ、いわゆるヴィティス・ヴィニフェラ種には属しません。つまりもともとエミリア地方に自生していた野生種で、ヴィティス・ヴィニフェラ種以外のものの総称をランブルスコと呼んでいるようです。だから「ランブルスコ」にはいろいろなランブルスコがあり、多種多様なのです。

2019年7月に東京で行われた「イアン・ダガタ」氏のセミナー(INDIGENA WORLD TOUR―TOKYO)に参加しました。
そこでは5種類のランブルスコを試飲しました。イアン・ダガタ氏は世界で活躍するイタリアワイン専門のジャーナリストで、2012年にベスト・イタリアン・ワインジャーナリスト賞を受賞、2016年に「世界で最も重要なワインジャーナリスト8人」のうちのひとりに選抜されたイタリアワインの第一人者です。

写真 ランブルスコのテイスティング

見てください!!こちらは全てランブルスコ。
こんなに色合いが違うのです。

左2つ①②は「ランブルスコ・ディ・ソルバーラ」という品種。ランブルスコの起源といわれる古い品種で、ほぼロゼワインのような色ですが、ロゼを狙ってこのような色に造られたわけではありません。ここまでしか色素抽出ができない品種なのです。スミレのようなお花の香りがあり、しっかりとした酸とミネラル感を持つ味わいで、優美で高貴な印象を与えます。
②はソルバーラのグラン・クリュといわれる「クリスト地区」のもの。一般的なソルバーラに比べ、しっかりとしたボディを持ち広がりのある味わいに仕上がっていました。

私は2018年の9月初旬に、ランブルスコ・ディ・ソルバーラを使ったメトド・クラッシコ製法のスプマンテメーカー、その品質の高さで注目の新進気鋭の生産者『カンティーナ・デッラ・ヴォルタ』を訪問しました。

写真 カンティーナ・デッラ・ヴォルタ

ランブルスコ・ディ・ソルバーラはモデナ近郊の砂質土壌の平地の畑で栽培されています。この辺りにはセッキア川とパナーロ川という2つの河川があり、畑の土壌はその川が運んできた沖積土壌です。ブドウ畑というと丘陵地帯の斜面という印象が強いのですが、このあたりは平地続き。しかも樹勢が強く、こんなワイルドなブドウ畑からあんなに美しいワインが生まれているのには驚きました。私の身長と比較して…、樹高は2メートルくらいありそうですね。

写真 ランブルスコ・ディ・ソルバーラの畑

ワイナリーでは4種類のソルバーラをテイスティングさせていただきました。特に個性的だったのは一番右のD.D.R.2009。瓶内熟成がなんと84ヶ月(7年)でデゴルジュマンは2017年の2月とのこと。このような大きなグラスでゆっくりと楽しみたいソルバーラです。チェリーコンポートのような甘い香りが印象的な辛口でアマローネのようなまろやかさがあり、ビターチョコをつまみながら優雅に楽しみたいソルバーラでした。

←写真 カンティーナ・デッラ・ヴォルタにて4種のランブルスコ・ディ・ソルバーラをテイスティング

 

 

それではイアン・ダガタ氏のセミナーに戻ります。

③のランブルスコは「ランブルスコ・マエストリ」です。非常に濃い紫がかったルビーレッドの色調(今回のランブルスコの中で最も濃い)で、豊かな香りを持ちフルーティーな味わい、先程のソルバーラのような優美さはないもののその充実した果実味からとても人気があり、近年栽培面積が増えている品種です。口に含むとまろやかでやさしい甘みを感じられ、ソルバーラのような厳格な酸はなく、濃厚でジューシーな味わい。パルマに近い地域で栽培されている品種です。

④は「ランブルスコ・グラスパロッサ」です。色は先程のマエストリのように非常に濃いですが、大きな違いは豊富で力強いタンニンを持っていることです。グラスパロッサはモデナの南の丘陵部、やや粘土の多い土壌のカステルヴェートロ村で主に栽培されています。やや青いトーンが出やすい品種で、ときにタンニンが攻撃的に感じられることもありますが、しっかりとした骨格を持ちフルボディで複雑な味わいのワインとなります。

⑤は「ランブルスコ・サラミーノ」。ソルバーラとグラスパロッサの中間的な、さらにマエストリとグラスパロッサの中間的な特徴を持ちます。ソルバーラのように香り高く、マエストリのようにフルーティーで、グラスパロッサのようにしっかりとしたボディを持つ、3品種のいわゆるいいとこどりをしたような品種です。

今回は登場しませんでしたが、重要なランブルスコとして「ランブルスコ・マラーニ」という品種があります。こちらは色が淡く香り高く繊細でソルバーラに似た特徴を持っています。

これらのランブルスコをテイスティングしているとお腹が空いてきます。だって美食の州として知られる「エミリア-ロマーニャ州」の地酒ですから。生ハムやサラミ、ソーセージなどの加工肉、パルミジャーノ・レッジャーノチーズ、ラザーニャ、ボローニャ風ミートソースのタリアテッレ、ボッリート・ミスト(さまざまな部位の肉を茹でたもの)など、この州には多くの有名な郷土料理がありますが、これらの料理にランブルスコは必需品です。

写真左 州都ボローニャのサルメリア店内

 

 

→写真右 さまざまな特産品・詰め物パスタのトルテッリーニやトルテッローニ、ラザーニャ、パルミジャーノ・レッジャーノチーズなど

 

 

 

フードフレンドリーなランブルスコ。
生ハムやチーズをつまみながら、ピッツァやミートソースのパスタと一緒に、バーベキューのおともに、ハンバーグ、お好み焼き、焼き肉、ステーキなど、お肉を中心とするさまざまなお料理と一緒に、ぜひ気軽に楽しんでみてください。そして、「生ハムにはソルバーラだね」とか「ラザーニャにはサラミーノだね」というように、それぞれのお料理にお気に入りのランブルスコを見つけてみてはいかがでしょうか?きっと食事の時間がもっと豊かに、もっと楽しくなりますよ。

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