貴腐ワイン

 

貴腐ワインを初めて口にした時、きっと誰もが驚かれるはずです。
蜂蜜やアプリコット、スパイスなど、一言では表現できないほどの複雑な香りと、その甘く優雅で美しい味わいに、思わず酔いしれてしまうことでしょう。

実はこの貴腐ワイン、偶然にできた産物なんだそうで…
1650年頃、ハンガリーのトカイ地方ではオスマン帝国による侵略の影響で、ブドウの収穫が遅れてしまいました。適切な時期に収穫されなかったブドウにはカビが生え、水分が抜けてしまい、しなびた状態になってしまったのです。

しかしながら、このブドウから生まれたのが世にも高貴な貴腐ワイン。

ルイ14世が「ワインの王にして王のワイン」と絶賛し、マリア・テレジアが黄金色に輝くワインの中に金が含まれているのではないかとウィーン大学で分析させたという逸話も残っています。

 

貴腐ワインで最もポピュラーなのは、ソーテルヌ。

手頃なものは3千円前後で購入できますが、有名なシャトーディケムはそのヴィンテージにもよりますが、最低でも5万円前後します。ソーテルヌ地区ではブドウが熟す秋、森の中を流れてくる水温の低い小さな川「シロン川」が、大きな川「ガロンヌ川」と合流する時、その水温の違いから、午前中に霧が発生し、そして午後になると一転、霧は晴れて太陽光を受け、畑は暖められます。その絶妙な気候条件が貴腐菌(ボトリティス・シネレア菌)の発生を促し、貴腐菌の菌糸はブドウの果皮に小さな穴をあけ、その穴からブドウの水分は蒸発し、果実はしなびて果汁は濃縮され、「貴腐ブドウ」へと変化します。この「貴腐」と呼ばれる状態のブドウから、甘美な貴腐ワインは生まれるのです。


いわゆる三大貴腐ワインと呼ばれるものがあります。

一つ目は先ほどお話しした、ボルドー地方のソーテルヌ。
二つ目はドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ。ドイツワインの最高ランクに格付けされるワインです。
そして三つ目は、ハンガリーのトカイアスー。17世紀、貴腐ワインが生まれた土地です。

実はこの貴腐菌、ブドウにとって良い効果をもたらすだけとも限りません。未熟果についてしまい、その段階で雨が多かったり多湿だったりすると、灰色カビ病という病気になってしまうからです。ですから、収穫期の「午前中の霧」と「午後の太陽光」が絶対的な条件であり、自然の神様が与えてくれた最高傑作ワインとも言えるでしょう。

そしてこの貴腐ワインは多大な手間暇を必要とします。貴腐菌は均一につくわけではなく、樹ごと、房ごと、粒ごとに、異なったつき方をするからです。そのため、房ごと、粒ごとに状態を見極め、畑を何度も往復し収穫を繰り返すのですから、本当に大変です。

ちなみに日本でも貴腐ワイン造りは成功しています。サントリーの山梨ワイナリー(現在の登美の丘ワイナリー)で1975年、貴腐ブドウが発見され、大きな話題となりました。1978年、サントリーは日本初の貴腐ワインの商品化に成功、それ以来、気候条件の良い年には素晴らしい貴腐ワインを世に送り出しています。

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